多様性ではなく公平性
私の兄一家は、毎年イギリスにあるトアクロスという絵画に描かれるような美しい海辺の町で夏休みを過ごします。今年の夏は、私もその休暇に参加しました。トアクロスは、南デヴォン地方にある小さな村で、美しい海岸線とビーチが有名です。
その休暇中のある日の午後に、義理の姉のシャーリーンと話をしていました。彼女は、ロンドンを拠点としグローバルに展開する経営コンサルティング会社で人事担当のシニアエグゼクティブを務めています。話題が、人材採用に関するものになった時、義姉は、人事として最大の挑戦は、経営陣に「自らと違う人」を採用するように勧めることであると言いました。その会社の経営陣は、どうしても自分に似たような人材を求めてしまうことが多いそうです。
実はこれは珍しい傾向ではありません。私たちは、自分と同じような人を好むものです。共通点があれば、コミュニケーションも取りやすく、円滑に業務が運ぶと考えがちです。確かに、趣味もユーモアのセンスも同じなら、花金に一緒に飲みにいくのも楽しいことでしょう。
人材を紹介する立場から見ても、採用担当者と同じ学校、同じ経歴の人が採用されやすいという、バイアスは明らかに存在します。私はこの20年間、何度も「フィリップ、今回のポジションは、製薬業界以外からの人材を探しています。私たちはとてもオープンだし、多様性を奨励していますよ」と言われてきました。しかし99%の確率で、同じ業種出身の似たような経歴を持つ人を採用することになるのです。
なぜ、枠にとらわれない考え方で採用することが難しいのでしょうか?求人や仕事内容の紹介で使われてきた最悪のフレーズの一つが、「既成概念にとらわれない人材を求めています」かもしれません。なぜなら、多くの場合それが真実ではないからです。本音は、その会社の枠の中で、非常に優れたパフォーマンスを発揮できる人を雇いたいと思っていることが多いのです。
多様な人材を採用するということは、自分の持つバイアスを捨てなければなりません。回復の第一歩は、自分が問題を抱えていることを認めることだとよく言われているのと同じで、スタート地点に一旦戻らなければなりません。人は本質的に考え方には偏りがあります。もちろん採用するのは人ですから、どうしてもバイアスが入ってしまうものなのです。
人材紹介会社は、最終的に採用される人材を紹介することで、利益を得ます。そうなると、採用される可能性の高い候補者を紹介するというのが当たり前の流れになってしまいます。
「なぜ、多様な人材を採用するべきなのでしょうか?単純にそのポジションに最適な人材を採用すべきなのではないですか?」と問うこともあると思います。
多くの企業は、多様性を「ビジネスの取り組みとして」または「公平性」のいずれかとして捉えようとしています。
ハーバード・ビジネス・レビュー誌の最近の研究によると、どちらの主張も、実は、多様性の対象となるグループを象徴することにはつながりません。調査の参加者は、自分たちがステレオタイプ化されていると感じたそうです。この研究によると、企業にとっては、中立か公正のどちらか立場をとる方が良いとのことです。
結局のところ、多様性を実現することをビジネスの取り組みとして捉えるのは、裏目に出ていることがあります。それは、マイノリティーから雇用することがゴールになってしまっている場合です。「とにかく採用しておけば良い」という考え方です。気に入らないことがあると、わざと失敗するように仕向けて、やっぱりダメだったと、特定のタイプの人を排除することにつながる場合もあります。マイノリティーだというだけで採用された人がスーパースターでない場合、不平不満が噴出するかもしれません。自分が、正当な評価ではなく、ただ単に「ダイバーシティ要員」だから雇用されたことを知ったら、あなたはどう感じるでしょうか。
候補者は、情けをかけて欲しいのではありません。求めているのは、公正な評価なのです。そんな中で、企業はどうすれば良いのでしょうか。一つの考え方として、公正さをコアバリューにすることが挙げられます。企業は「イノベーション、協力、人間関係第一」を正当化する必要はないのです。
企業が多様性についてどのように捉えるかは、多様性に関する目標を達成できるかどうかに大きく影響します。公平性の方が、より達成可能な目標かもしれません。
参考資料:
Getting Serious About Diversity: Enough Already with the Business Case (hbr.org)